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幸せの種が芽吹く場所

プロフィール

小林恭子(こばやし・きょうこ)

「CAFE icoi」の店主。

2016年11月1日に森ノ宮でオープンし、『「共存」を楽しむ憩いの空間』をコンセプトに掲げている。

優しい味付けのランチメニューを中心に、ケーキ作りや紅茶選びにも力を入れており、日々SNSでお店の様子をアップし続けている。

また、頑張る人を応援したい想いから、2階にイベントスペースを設けており、新しい繋がりが生まれている。


CAFE icoiに足を踏み入れると、そのあたたかい雰囲気に心が落ち着く

お店に来ているというよりも、お家に迎え入れてくれる感じだ

 

時間にゆとりのない日常の中で、ふと立ち寄ったCAFE icoiで感じるちょっとした幸せは、お店を後にしてからもその人にとって大切な誰かにお裾分けされていく

心安らぐ場所を求めて、いつでもお客様が帰って来られるように、いつまでも変わらない場所であり続ける

ぬくもりを知った高校生の冬

オーナーの小林さんがお店づくりをしようと思った原点は、学生時代にある

 

小林さんが小学生の頃からお母さんが鬱気味になっていき、中学生の時にはお父さんが突然病気で倒れた

一度は無事にお父さんは退院できたが、小林さんが高校生の頃に再度倒れて言葉も体も不自由になり、それにショックを受けたお母さんの症状もますます酷くなってしまった

それ以来、大事な家族をどうすれば笑顔に戻せるかを考えるようになったそうだ

 

学校もきちんと通い、アルバイトや進路の選択で悩む中、兄弟と一緒に介護もして、とても忙しい毎日を過ごしていた

その多忙を極める環境に「辛さ」も感じており、落ち着ける時間もほとんどなかった

 

苦労やプレッシャーがある中、ある冬の寒い日にバスを待っている時、自動販売機で一杯のコーヒーを買って飲んだ

そして、一口飲んだコーヒーの温かさに、「大丈夫、大丈夫」と優しく背中を撫ででもらっているようなあたたかさを感じて、思わず泣いてしまう…

小林さんはそれ以降、心にぬくもりを与えてくれたあたたかいコーヒーのように、いつか頑張る人の支えになるようなことがしたいと思うようになった

自分ができる限りのことで、大事な人がいつも笑っている日常を作り出すことをしたいと心に決め、CAFE icoiでカタチにしている

焼き上がりのお菓子やイベント情報を毎日SNSで発信


想いが込められたランチ

CAFE icoiのランチメニューには、定番の「お弁当」がある

木製のお弁当箱の中に、20種類以上の食材を使ったおかずが入っており、日によって使う食材も変えている

お客様に安心して食べてもらいたいという思いから、使っている野菜はほとんどが顔見知りの方から仕入れている

 

それ以外にも、お客様からいただいた調味料や食材を、実際に具材として入れることもあるそうだ

作った料理の写真を、食材を提供してくださった方に送ると、すごく喜んでいただけるそうで、小林さんはそうした幸せの循環を大切にしている

また、そうした食材を使って作った料理が食べられず、無駄になってしまわないように、次の日のお客様の人数をある程度予測して、ご飯を炊く量やランチのメニュー数も調整している

翌日の仕込みをする小林さん

毎日20種類以上の具材にするこだわり


小林さんは、前日の仕込みでほとんどの具材を作り、当日は盛り付けだけをすればよい状態として、一人前ごとに丁寧に小分けしている

想定外にお客様がたくさん来てもお待たせすることなく料理を提供でき、お客様に対する気遣いが疎かになってしまうことを防ぐ小林さんなりの工夫だ

 

さらに、好き嫌いやアレルギーが分かっている常連のお客様に対しては、準備の段階で他の食材を使った具材に変えている

こうした細かい配慮には、残さずにしっかり食べることを楽しんでいただきたいという、小林さんの想いが込められている

思いが伝わらないもどかしさ

今の場所を知ったきっかけは、友人からの紹介だった

この場所周辺には、小林さんの知り合いも全くおらず、その当時は人通りも少なかったので、お店を開くには少し厳しいのでは...というのが最初の印象だった

 

しかし、この紹介を受ける2年ほど前から、小林さんは、自分でお店を持ってからのメニュー展開、お店のオペレーション、店内レイアウトなどをノートにしたためており、自宅でシミュレーションをしていた

また、知り合いの飲食店のお手伝いをしていた経験も活き、この場所に建っていた古民家を改装すれば、イメージ通りの運営ができるという判断で、開店に踏み切った

住宅街の中にそっと佇む「Cafe icoi」

後片付けの一つ一つの所作が丁寧な小林さん


ようやく第一歩を踏み出した小林さんだが、最初は描いていた通りのお店にできなかった

オープン当時は、ドリンクを何種類も用意してフリードリンク制にしていた

しかし、小林さんの意図に反し、長時間居座るお客様が増えてしまい、売り上げに影響を与えることになってしまった

雨風をしのげる場所を作るのが目的ではなかったので、無茶な長居をご遠慮していただくため、フリードリンク制は止めることにしたとのこと

すると、それまで長時間利用していたお客様が店内ルールを守ってご利用いただけるようになり、以前から入ってみたいと思っていたが入りづらくて来られなかったお客様や一人でふらっと立ち寄るお客様も増えてきたと笑顔で語っている

 

自分の素直な想いをお客様に感じてもらう難しさを実感したが、それも良い経験になったと前向きに捉え、料金体制やメニュー構成などを見直すキッカケになったそうだ

ちょうど良い空気をつくる

小林さんは、CAFE icoiが日々多忙を感じる人こそフラッと立ち寄って、ちょっとした幸せを感じてもらえる場所であってほしいと思っている

お店に来る前はどこか気分が落ち込んでいたとしても、帰る時には、ホッとしているような、心の中で変化が起こってほしい

また来たいなと思ったお客様が、変わらないCAFE icoiの雰囲気と提供する飲食を楽しみにして、また戻って来られる場所で在り続けるように、お店の成長と共に日々お客様の気持ちを考え続けている

  

それを象徴していることがある…店内の環境も大切だと考える小林さんは、天井・音楽・椅子・机など、お店の細部にまで工夫を凝らしている

時間帯や来ているお客様の様子を見ながら、店内BGMのテンポを変えている

取材中、ひと段落をしてお話をするタイミングでも、小林さんはさりげなく音楽の雰囲気を変えてくださっていた

 

また、キッチンと客席のカウンターの間にある壁の高さを、最近少し高くする改善をした

調理作業をしている時に、お客様と目が合ってしまう瞬間が必要以上に多いとお客様が落ち着かないのではと思ったそうだ

さらに、炊飯器を開けた時に少し湯気がカウンターの方に流れてしまうのがどうしても気になっていたのも、理由の一つだ

カウンターとキッチンの距離感が少し離れてしまうが、それでもお客様の居心地が少しでもよくなるように、日々のやり取りから感じた違和感と向き合い、工夫を凝らしている

自然光が「Cafe icoi」のあたたかい空間を演出している

キッチンの様子をさりげなく見えなくしている


CAFE icoiで感じる、何となく落ち着く雰囲気には、そこにいる人が作り出す空気感の他にも、こうした小さな心遣いの積み重ねが表れているのかもしれない

そして何より、お客様にお店に来てもらうことがゴールではないと考えている

CAFE icoiで感じたちょっとした幸せが、例えばその人が家に帰ったら家族にちょっとだけ優しくなって、家族みんながいつもより少し幸せな気持ちになる「幸せの循環」を大切にしている

頑張る人を応援したい

CAFE icoiの2階には、イベントや会議室などで利用できるスペースも設けてある

このスペースを使ってイベントを主催してもらう人は、小林さんのお知り合いの方が多い

当初の予定では1階のカフェのみだったが、せっかく2階のスペースを使えるなら、これまで出会ってきた頑張る人たちを応援できるような場所にしたいと思ったそうだ

 

暮らしを大切にしたいと考えている小林さんは、衣食住に関わる取り組みをしている人にお声がけをしており、CAFE icoiに来るお客様もワークショップに参加している

最近はご近所に住んでいる方との繋がりも薄くなってきているが、参加者同士でお話ししている時に、「あそこに住んでいる〇〇さんなんですね!」と知ることもあるそうだ

ワークショップやセミナーで利用する2階のスペース

紅茶や手作り菓子はギフトとしても喜ばれている


この日はフラワーアレンジメントのワークショップを開催していた

ランチも終わり、ひと段落した時間帯にスタートし、2階からは賑やかな声が聞こえてきていた

ワークショップが終わった後、1階に降りてきた参加者が、「これ見てください!上手にできたんです!」と小林さんに嬉しそうに報告

その後、カフェでゆっくりお茶をして帰っていった参加者たちの喜びや幸せは、CAFE icoiの外でもきっと誰かに伝わっていくだろう

お客様と創り続ける場所

お店にとって居心地の良い場所になるように、新しいことに取り組む小林さん

ランチメニュー以外にも紅茶の勉強もしており、体に優しい成分が含まれているものを知人のお店から仕入れている

 

また、昔は苦手だったお菓子づくりにも挑戦して、今ではアーモンドケーキ、シフォンケーキ、米粉ドーナツなどがテイクアウトもできる人気スイーツとするなど「もっと、こんなお店にしたい」という想いを、次々にカタチにしている

 

そんなCAFE icoiには、地元の子供達や学生からサラリーマンや主婦など幅広い年齢層の人たちが来ている

よくお店に来ている留学生の人にお話を聞かせていただいたが、「本当に落ち着くことができるし、ご飯も美味しい…小林さんとお店のことが大好きです」と答えてくださった

 

また、食事を終えたお客様が帰ると、普段は小林さんがテーブルの食器を片付けるのだが、頻繁に通っているお客様はわざわざ自ら小林さんの元までトレーを持って行き、「ごちそうさまでした」と言って返却していた

こうしたお客様の行動は、きっとお店のことが大好きで、大切にしたいという気持ちの表れだと思われる

 

いろんな人の力を借りてできていることは、自分だけの喜びじゃなく、お客様にも幸せを感じてほしい

家族が喜んでいる姿を見て、大切な人が笑っている喜び知った小林さん

5年10年先のCAFE icoiを思い描きながら、日々様々な工夫を凝らしている

 

お客様にとってCAFE icoiは、いつでも帰れる心落ち着く場所で在り続けるだろう

小林さんが厳選した色とりどりのハーブティー

看板メニューの1つとなったシフォンケーキ



ライタープロフィール

佐比内優太(さひないゆうた)

 

神戸大学工学部4年生。

社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い、現在休学中。

バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。

BusinessCafe関西インターン生。

 

https://www.yutas-introduction.com/